VIP用トイレのこと

 私のベッドから共同トイレまで往復150歩程度の距離。開腹手術後のリハビリウォークにとりあえずちょうどいい歩数。ただね、いま令和なんですよ・・・。わりと「室内共同」になってないですかね?トイレ。まあトイレが病室内に設置されてないお陰で、ひとりに割り当てられてる病室の区画は広かったんですけどね。



それでもそのお陰で毎日歩くという術後最大のミッションを怠ることなく遂行できたので、病室外の共同トイレには感謝しておりますが、ただこの病院。昭和50年代のドラマのロケ地にもってこいの風情だ。昭和の医療ドラマを撮りたいと思っている業界の方に推薦したいくらいの佇まい。(ただし1Fのセブンイレブンを除く)ベッドなどの備品からはかろうじて平成のにおいを嗅ぎ取れたけど、未だこの状態を死守しているのもすごいなと思った。風で流れてきた話を盗み聞きしたら、どうも病棟以外の改装に大金をつぎ込んでしまったらしい。



私と同じで、すごい昭和臭を感じ取った、壮大なスケールで寝息を吐き出す30代が看護師さんに聞いていた「何でこんなに古くさいんですか?」と。聞く感じでは100%悪気ゼロなんだけど、質問する言葉の選び方は他に50通りくらいあるような気がするが。なぜ一番言ってはいけない表現で質問した・・・。



重要なところにだけお金がいっちゃってー・・・と看護師さん。私にはその言葉が「最先端の医療機器を購入した」と言っているようには聞き取れず「院内売店をセブンイレブンに変えた」という意味にしか聞こえなかった。私としては食事のテコ入れを是非・・と願うところだけど、もし何かあってまた入院する時は違う病院にすればいいだけの話なので、最先端の医療機器を増やしてもらった方がありがたい。今後どんどんと年を取るし、病院への頼り方も変わってくるし。



で、肝心のVIPのトイレですが・・。




トイレ案内



私の隣の4人部屋には、私が退院するまでずっと同じメンツの4人が入院していた。遠くのトイレに行くすがらにチラッと見る限り、みなさん御年70後半と見えた。杖を突いて歩いていたり、歩く速度がとても低速だったりと、腹を切って腹筋が崩壊した私よりトイレに行くのが大変のように思えた。ああだからそういう事か。



杖を突いてトイレに向かう山田さん(仮名)

壁をつたってトイレに向かう田中さん(仮名)

膝が悪いと見受けられる歩き方の佐藤さん(仮名)

入れ歯入れの横に入れ歯を置く鈴木さん(仮名)



「keme.さんのトイレは基本向こうです」と念を押されていた理由が見えた。「ここ(VIP用)使ったらダメなんですか?」と尋ねた時に、ごにょごにょと歯切れの悪い返事が返ってきた理由もわかった。新型コロナのお陰もあって、いつもより入院者数が少ないので空きベッドが多いんですよーと看護師さんが言っていて、ひとりも入院していない部屋もたくさんあったのに、私の隣の部屋だけ定員数通りに部屋を使っていたのはこのためだったのね。



病室の真向かいにあるそのトイレは、機敏な動きが難しく、なおかつ長い距離を歩きづらいマダムたちのため用にしておきたいんだという配慮があった。なんかその配慮はいい事だけど、高齢になっても産婦人科病棟に入院する事もあるのだから、せめてひと部屋くらいトイレ付に改装すればいいのに・・夜中、たまにトイレの水が流れる音がしていたので、きっと杖を突いてトイレに向かう山田さん(仮名)か、壁をつたってトイレに向かう田中さん(仮名)か、膝が悪いと見受けられる歩き方の佐藤さん(仮名)か、入れ歯入れの横に入れ歯を置く鈴木さん(仮名)のどなたかが使っていたと思うのよ。近距離といえども切ないぞ。廊下の向かいは。



でもそんな切なさも、鈴木さん(仮名)がベッドサイドテーブルに日替わりでキチッと整列させる「コップ・朝ごはんについているプリン・入れ歯入れ・入れ歯」や「コップ・入れ歯・目覚まし時計・きんちゃく袋」などに心をくすぐられ、一瞬で消滅。毎日コップのフチ子さんのようにベッドサイドテーブルの縁ギリギリに整列させられたアイテム達に、ほのかな期待を寄せていた。次は何が置かれるのだろうと。鈴木さん(仮名)のお陰で、部屋に籠ってリハビリのために廊下をヨタヨタ歩くことをサボらずに済んだ。



ならば鈴木さん(仮名)達のために!!と思いながらも、急遽襲ってきた大きいほうと夜中の催し物ではVIP用トイレ、使ってしまいました。ここは病院で安全だと確認できても、薄暗い廊下の先にある夜中の共同トイレは何かが起こりそうで怖かった。昭和臭さがそこかしこに残る病院は、そこそこホラー感も漂っていたので。



viva入院生活



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